コインランドリーで失踪

𓅰 yo.fujii.hitohitsuji@gmail.com

文体の舵をとれ第二章

アーシュラ・K・ル=グウィン『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』の第二章を読んだ。

文章がかっこいいな〜というバカみたいな感想が浮かんだ。

なぜなら実際、とりわけ書き言葉における言葉遣いはひとつの社会問題、すなわち、わたしたちが理解し合う手立てについての社会一般の約束事であるからだ。

書き言葉ではなく話し言葉の話をするのはどうなんだ、という感じだが私が思い出すのは『雨に唄えば』のリーナ・ラモントだ。サイレント映画がトーキー映画に変遷していくなかで、彼女は酷い訛りの言葉しか話せず歌も満足に歌えないことで次第に時代から取り残されていく。それまでの映画界は彼女の美貌が約束事だったのに、映画界のルールが変わったから彼女の居場所は失われてしまった。ちょっと違う話かもしれないが、文章を書くとき、そういうことを考えている。

それはともかく、練習問題。

 

練習問題2
一段落~一ページ(三○○~七○○文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)

 

 目の前にはずらりと並べられたチョコボールの小さな箱たちが壮観でいちごにピーナツにキャラメルに色とりどりのそれらが隙間なくつまったようすはさながら上質なチェック柄の織物に見えないこともなくそこから一箱抜き出してみるとあの見慣れたキョロちゃんの二つの目がこちらを向いていて視線を感じつつビニール包装を指先で少しずつめくっていき最後までピッと剥がれたところでいちご味特有のあの甘ったるい香りが鼻孔をくすぐることとなったのでふと手を止める一瞬の緊張のあと意を決してくちばしをゆっくりと押し上げたその瞬間向かいに座っていたあなたがにやっと笑うのでそこで金のエンゼルも銀のエンゼルもいなかったことがわかってしまいネタバレやめろよ~と少し困ったような声色になるよう調整して言ってから確かに裏側をみるとそこはただ真っ黄色の地があるだけでまだ始まったばかりだと気を取り直してまあこれだけあるしねと答えるとあなたがふふんと鼻を鳴らすのでそれからは二人で夢中になってエンゼルを狩ることになるがやっぱりなかなか見つからないと思った矢先あなたが声をあげたので見るとそこには金のエンゼルがにっこりと微笑んでいて七箱目で見つけたのはけっこう運が良いんじゃないかと自慢げなのがちょっと悔しくまた手当たり次第次々にチョコボールたちに手をかけるも外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れるうちに全然ダメじゃんと笑われても手を止めないで探し続けてようやく銀のエンゼルが一匹だけ見つかったらあと四匹だぞ~とあなたが他人事のように煽るのがおかしくて絶対これ全部食べる時のこと考えてないでしょとひたすら開封し続け外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れ外れなんだか次はいけるような気がする外れ次こそエンゼルだと思う外れ全然出ないな外れ甘い匂いでちょっと酔ってきたかも外れ外れ外れわたしってもしかして運が悪いのかな金あ

 

第二章所感:

難しいですね。最初は「」や?を使っていたが、もしかしてそれらも問題文にある禁止事項の「ほかの区切り」に分類されるのか?という疑問が生じ、書き直した。

論評時の反省や話し合いでは「区切りのない言葉の流れがどれくらいテーマとかみ合ったか」「語りとしてかたちになっているか」を見よと書かれているが、こんなもんどうとでも言えてしまいますしね…とちょっと思う。チョコボールを開けるのなんて一瞬の作業だし、当たりか外れか見分けるのも一瞬で終わるし。句読点を入れてしまうと逆にちょっとゆったりしてもちゃもちゃするんじゃないかな、と。そういうことにしようかな。まあ、読みにくいことに変わりはないですが。森見登美彦の地の文ではあんまりそんな印象なかったような気もするが、四畳半神話大系とかのアニメでの語りってなんかあんまり区切りを作らないように淡々と進んでいくような気がして、そういう「日常(?)」を一瞬スルーしかけそうになるくらい淀みなく語っていくシュールさってあると思う。ので、そういう効果は出たんじゃないでしょうか(投げやり)。

ただやっぱり「〜ので」「〜しており」みたいな表現は多用してしまうな難しいな、と思った。それ以外でつい使っちゃうなと思ったのは、語りの温度は変えずに視点を変えるやつ。冒頭とかはまんまそれで、カメラでどこを抜くかをシームレスに変えていくことで読みにくさをできるだけ減らそうと努力している痕跡が、ある。

あと、突然文章から句読点が完全消滅したらびっくりするだろうと思うので、作品のなかでやるとしたら、完全に句読点をなくすというよりは使用する頻度に緩急をつけて、という感じの運用なのかもしれない。普通に読んでたら突然句読点が完全消滅する文章、ちょっと読んでみたいが相当難しそう。