コインランドリーで失踪

𓅰 yo.fujii.hitohitsuji@gmail.com

ヤフオクで鳩の謎を追った

ここ最近、ヤフオクを見るのにハマっている。

最初は「ちょうどいい花瓶がほしいな」という軽い動機で覗いてみたのだが、Twitter中毒の人間が足を突っ込むべきではなかった。無限にポップし続ける珍奇な商品の数々……スクロール、そしてスクロール。目が楽し〜。数時間は余裕で見続けてしまう。GAFA許せねぇな。

「鳥 置物 ビンテージ」で検索したもの。

3点はどれも北欧ビンテージ。北欧には抽象的な鳥が多いようで大変好ましい。こんなにかわいい顔をしているが、すべて数万円超えの高嶺の鳥さんたちである。

このように、たいてい「○○ ビンテージ」「○○ アンティーク」等で検索すると、味のある品物がずらりと出てくるので見ていて飽きない。

私は無類の鳥好きなので、その日も「鳥 アンティーク」と検索し、ぎっしり陳列された古き良き鳥たちを無心で鑑賞していた。

ふ、ふーん。かわいいじゃん…。

なんかあった。「コレクション 昭和 レトロ アンティーク 置物 飾り 金属製 鳥」。そっけねー。見たらわかりますよ。でも500円なのか…。いままで数万超えの鳥さんばかりを見続けていたので非常に安く感じる。

メジャー助かります

胸の感じからして鳩だろうか。ちょっとドヤ顔しているようでかわいい。突然自己紹介を始めるが、私、藤井佯は造鳩會という文芸サークルを運営している。つまり鳩を造っている人間なので、鳩を見ると「オッ」と心の隅に意識してしまうのだ。ふと思い出したのが、昨年文学フリマ東京に初出展したときのこと。勝手がわからず現金トレーの用意を忘れてしまった。とりあえず手元にあった缶のフタで代用したのだが、これがとにかく使いづらい。小銭がフチに引っかかって全然取れない。今年も出展予定なので、今度こそちゃんとしたトレーを用意していかなきゃ……。

 

これちょうどいいじゃん。造鳩會だし、鳩だし。安いし。かわいいし。現金トレーではないけど。

 

ということで入札しました。ワクワクです。

トレー表面の一部を拡大したもの

細部をよく見てみる。上の方に鳥の足跡のようなものが施されており、大満足スマイル。下は、作家のサインだろうか?米に丸印のように見える。サインを見てパッと「これは○○の作品ですな……」と分かる人もいるのだろうが、私は当然ど素人なのでさっぱりだ。そもそも全く無名の作家の可能性のほうが高い。

裏面の画像もあったのでそちらも併せて確認することにする。

トレー裏面

んんん?なんらかのマークと建物が彫られていた。何かの記念品だったのだろうか。

説明文には下記のように記されていた。

当方詳しくないため、素材等商品に関しての詳細は不明です。不明な点も多いため、ジャンク扱いにてお願いいたします。

 

ふーん。

……ふーん。

……。

……気になるじゃん。

 

少し前にネトストの記事が話題になっていたが、私もそういった特定遊びが嫌いかと言われれば嘘になる。一度何かが気になり始めると納得するまでググってしまうし、友人宅住所をSNSに投稿された画像から特定したこともある。

 

というわけで、このトレーの正体特定を試みることにした。

 

現状わかっていることを整理する。

・おそらく何らかの記念品

・米に丸印をサインとする作家の作品

・桜のマークが刻まれている

・なんか窓いっぱいの立派な建物に関連している

桜って「公」っぽいですよね

立派だなぁ

桜のマークがあると、まず公的機関かな?と思ってしまう。とりあえず「桜 校章」「桜 紋章」などでググってみるも何もヒットせず。あまりに雑な検索なので仕方がないと思うが、現状「公的機関のマークっぽい」という手がかりしかないので、どう調べたものかさっそく途方に暮れる。

では建物の方はどうだろうか。最低でも7階ほどフロアがありそうなので、そんなに昔の建築物ではないのではないかと推測できる。昭和、それも戦後とかではないか。しかしこちらもこれといって検索をかけやすい特徴がないので難しい。

 

うんうん唸りながら画像とにらめっこし続ける。やはり、いくらインターネットが発達しているとしても手がかりが少なすぎる。無謀なのだろうか。

画質…

今のところ希望が持てそうなのが桜マークなので、限界まで拡大し睨み続けること30分。

 

……?

 

いや、あれ?

 

これ、井桁に三じゃね?

 

????????

公的機関ではない?三井グループか!?

 

脳汁ドバー。

 

最高最高最高!!!!

 

それにしても、桜マークの中に三井のシンボルマークとはどういうことだろうか。聞いたことがない。

早速、Googleの検索窓に「三井 桜マーク」と打ち込む。出ない。片っ端から三井グループの会社名+桜マークで検索をかける。そして……。

ありがとう鉄道歴史解説ニキ!

きた〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!

三井銀行 桜マーク」の画像検索でついにヒット!

angelusturpis.blog9.fc2.com相鉄と東急の歴史について解説してくれた見知らぬ人、ありがとう……。

 

三井銀行Wikipediaによると、

行章は三井両替店開業時から1943年昭和18年)までは三井財閥共通の「丸に井桁三」を使用。帝国銀行発足後「八重桜」となり、1954年(昭和29年)以降はこの八重桜に「井桁三」を重ねた意匠となった。創業100年を迎えた1976年(昭和51年)に「丸に井桁三」に戻すが、1984年(昭和59年)以降はCIを導入し、青地に白で楕円に「三」の字を基調としたマーク(作成・五十嵐威暢[1]を使用した。便宜的な略称は三銀(さんぎん)であり、子会社名などに使われた。 

とある。

日本最初の株式会社である第一銀行と、三井グループの中核であった三井銀行が合併し帝国銀行となるも、派閥争いで解散。その後、1948年に旧三井銀行・旧十五銀行系の(新)帝国銀行が発足。なんやかんやあって1954年に再び「三井銀行」に改称。行章も「八重桜に井桁三を重ねた」意匠になった、ということらしい。ややこしい。

 

そして、Wikipediaには見覚えのある建物が……。

なんか窓いっぱいの立派な建物!なんか窓いっぱいの立派な建物じゃないか!

日比谷三井ビルディングと判明

完全に一致。
脳汁ドバー2(ツー)。

こんなに上手く物事が進んでいいのか?何かの罠じゃないか?

日比谷三井ビルディングは1960年に完成した三井不動産の物件で、三井銀行本店が入居していた。東京都千代田区有楽町一丁目1-2という無茶苦茶な立地だったようだ。

すべて繋がっちまったなあ!!!!

 

とりあえず、このトレーは「三井銀行と日比谷三井ビルディングに関連する何か」の記念品であることはほぼ確定で良いのではないだろうか。

ロマン

ちなみに、このトレーがつくられた時期も少し絞ることができる。

三井銀行の行章が「八重桜に井桁三を重ねた」意匠であった時期は1954年から1976年である。さらに、日比谷三井ビルディングが完成したのは1960年のため、このトレーは1960年から1976年の間のどこかでつくられたものだといえるだろう。

 

ここまでにわかったことをまとめる。

・トレーは「八重桜に井桁三を重ねた」行章を使用していた時期の三井銀行の記念品であると考えられる

・トレー裏面に描かれている建物は、1960年に完成した日比谷三井ビルディングである

・トレーは1960年から1976年の間のどこかで制作された

 

あ〜〜〜〜すっきりした〜〜〜〜〜〜!

 

 

……。

 

いや、何か忘れていないだろうか。

 

そう、まだ「鳩さんを彫った人」がわからない。

天下の三井銀行さまが配布する記念品なのだから、著名な作家を起用している確率も高い。頑張れば特定できるのでは……?

無理でした。

 

いや、まだ諦めてはない。諦めてはいないんですけど……ちょっと。

米に丸印で作家を絞る、というのがかなり困難。私がなんでも鑑定団ではなかったばっかりにこんな……。

それからさらに格闘するも、一時休戦となった。

脳が疲れたので…。

 

 

ここ最近、ヤフオクを見るのにハマっている。

こういう、脳が疲れているときはぼーっと眺められるヤフオクの画面が染みるんですよね…。

あーあ疲れた。

さて、「鳩」の検索結果でも眺めて癒やされるか……。

 

箱入りエディション

!?

 

がっつり「菊池一雄」やん!!!!

ほんとだ「一雄作」って箱に書いとる!!!!!!

えーーーー。

 

菊池一雄といえば、広島の平和記念公園に設置されている『原爆の子の像』を手掛けた彫刻家である。でっけーじゃん…。

 

というか、本来は共箱入だったのですね。上品だぜ。

「記念品のようで裏に校章のような彫りと建物の彫りがあります」

やっぱり学校だと思いますよね!?私もいっときその線でめっちゃ頑張ったんですよ……。

そして、この出品者も「三井銀行の記念品である」ということは把握していないことが判明。こういう優越感はなんだか危うくて酔いそうになりますね。

鳩さんに癒やされようという下心で偶然発見した情報だが、これは私の日頃の行いの成果だといえるだろう。

それでは、わかったことを再度まとめる。

 

・トレーは「八重桜に井桁三を重ねた」行章を使用していた時期の三井銀行の記念品であると考えられる

・トレー裏面に描かれている建物は、1960年に完成した日比谷三井ビルディングである

・トレーは1960年から1976年の間のどこかで制作された

・鳩のレリーフの制作者は菊池一雄である

 

き、きもちぇぇ〜〜〜〜!!

 

高名であらせられる

さて、新たに見つけた出品情報に、共箱に同封されていた菊池一雄の略歴の画像が掲載されていた。ここから、トレーの制作時期をさらに絞ることができるのではないか。ここまできたんだ。やってやらぁ!

 

菊池一雄が、東京芸術大学と京都美術大学教授だった時期はWikipediaから1952年から1976年であることが判明した。さらに、東京文化財研究所アーカイブに下記の記述を発見。

また、同24年刊行した著書『ロダン』で、翌25年度毎日出版文化賞を受ける。

菊池一雄 :: 東文研アーカイブデータベース

 

ここで書かれている年は和暦である。つまり同24年というのは1949年。紙には「著書に"ロダン"がある」と書かれているので少なくともそれ以降につくられた略歴であることがわかる。この要領で年が絞れないか試していく。

すると、『原爆の子の像』の完成年が1958年で最も新しかった。

 

・トレーは1960年から1976年の間のどこかで制作された

 

 

……結局絞れなかった。まぁよしとしよう。

 

 

さて、最後に「何の記念品なのか」についてだが、これは調べてもわからなかった。そのため、今から書くのはあくまで私の推測である。

 

トレーがつくられた年代、1960年から1976年の間で三井銀行と日比谷三井ビルディングにとって祝うに値しそうな出来事を列挙してみた。

・1960年 日比谷三井ビルディング完成、三井銀行ビル入居

・1962年 日比谷三井ビルディング第3回BCS賞受賞

・1968年 東都銀行合併

・1970年 日比谷三井ビルディング10周年

この中ではやはり「日比谷三井ビルディング完成、三井銀行ビル入居」が一番しっくりくるお祝い内容な気がする。

というわけで私の結論としては、下記の通り。

 

1960年、日比谷三井ビルディングが完成し三井銀行が入居した際の記念品として菊池一雄に依頼し、鳩のレリーフがあしらわれた銅製のトレーが制作された。記念品のため当時の三井銀行の行章と日比谷三井ビルディングの姿が裏面に彫られている。

 

いかがでしょうか!実際のところは分かりませんが、もう満足したのでこれ以上はいいです。

いやー!楽しかった。良い暇つぶしでした。

ようこそ我が家へ!

そして無事に鳩さんを500円で落札することに成功しました。我が家へやってくるのが楽しみです。

今年11月20日文学フリマ東京35では、造鳩會の一員である私、藤井佯がこの鳩さんを現金トレーとして活用しようと思います。

 

最後に、去年発行した造鳩會の文芸誌でも見ていってください。

zo-q-kai.booth.pm

異界を觀相し、そのあわいに佇むこと。執筆者が観相するそれぞれの異界、それぞれの手触りを、小説・詩・短歌・日記・論考を通じて届ける文芸誌です。在庫僅少ですが、よろしくお願いします。面白さは保証します。

 

 

ここまで書いて、今日は鳩の日(8月10日)だったなと気づきました。やはり、鳩とは何か縁があるようです。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

 

 

 

 

追記

記事公開後、フォロワーの方から「新築記念で確定ぽいです」と下記リンクをいただきました。やったー!完クリですね。ありがとうございます。

page.auctions.yahoo.co.jp

 

また、トレー表面の「鳥の足型&米に丸印」ですが、これよくよく考えたら菊池一雄の「菊」の字の装飾文字ですね。い、粋なことを……。私に雅な心が足りないばっかりにこんな……。

 

ありがとうございました。